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第39回 「〜させていただきます」(1)


1990年代に入った頃から、「〜させていただきます」が増殖した。「まことに勝手ではありますが、本日は休業させていただきます。」(店頭貼り紙)とか、「***の件について、ご説明させていただきます。」(記者会見など)などの表現だ。「〜させていただきます」は元々昔からあった表現なのだが、あまりにもよく見かけるようになったため、多用しない方がよいと言う評論家や書籍執筆者が増えた。ひとつの書類や案内中の文末に「〜させていただきます」ばかりが現れる例も増えたからだ。

佐野2008(2012年9月号「日本語学」所収)によれば国会議事録では1980年代までほとんど一桁位だった使用例が1990年代には約100例、2000年代(それも2008年までで)約200例に上ったという。

「させていただきます」は使役、許可の助動詞「させる」と補助動詞「いただく」の合体に丁寧の助動詞「ます」がくっついている。

「〜していただく」は「〜してもらう」の丁寧形だと説明される。
  冒頭の「本日は休業させていただきます。」は誰が誰を使役、または許可しているのだろうか。
  本来は休みたくないけど、店主の方針が従業員(=貼り紙を書いた人)をして休ませるようにさせた。。。または、お客様から休むことの許可をいただきたいけれど、いちいち一人一人から許諾をとれないので、許してくれることを前提に「休ませてもらいます」なのか。。。二通り考えられる。
  本来、公共サービスは別として、店を開けようが閉めようが店主の勝手であるのだが、営業するのは企業の社会的責任だという拡大解釈が広がった。そして、「休ませてもらいます」では素っ気ないので、「休ませていただきます」が普及したのだろう。(つづく)

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[参考文献]
2012年9月号「日本語学」明治書院


2014.1.15 掲載



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