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劇団四季ミュ−ジカル 「クレージー フォー ユウ」

劇場を出た時、思わず「アイ ゴット リズム」と口ずさみ、タップを踏みたくなる。
傘を差しているのに改めて気がついて「これではジーン・ケリーの“雨に歌えば”の場面になるのではないか」と自分からツッコミを入れて笑ってしまう。ミュージカルは見終わってハッピーな気分になるのが一番だ。

劇団四季は昭和史の「語り部」として、ミュージカル三部作を制作した。「李香蘭」では数奇な運命を辿った山口淑子氏の自伝を基に日中戦争から第二次世界大戦に突入する日本を描き、「異国の丘」ではシベリアに抑留された敗戦兵たちの故郷に対する思いを伝えた。「南十字星」では南国の色彩、民族舞踊などミュ−ジカルとしての要素も盛りたくさんだが、BC級戦犯問題を正面から捉えた。

歴史的に重厚な作品群の後で今度は軽快な小品で観客を楽しませよう、というのが プロ集団としての四季の余裕だろう。

ボーイ ミーツ ガール

舞台は1930年代のニューヨークと、西部はネバダ州廃鉱金山の町デッドロック。

タップダンスに夢中のボビー・チャイルド(加藤敬二)は、ブロードウエイ大物興行師べラ・ザングラーに売り込んだが見事に断られる。銀行のオーナーである母親は、ダンスから息子を遠ざけるため、超田舎のデッドロックへ物件の差し押さえに行かせる。

実は物件は潰れかけた劇場で、ボビーは劇場主の娘ポリー(樋口麻美)に一目ぼれ。しかし、彼女は債権者には心を開かない。劇場を救うため一興業打とうとボビーはザングラーに変装し、ニューヨークから呼び寄せた踊り子たちの相手に地元の飲んだくれ鉱山師たちを特訓する。開演したもののお客は来ない。そのころにはポリーが変装したボビーに夢中になり、廃坑でやる気をなくしていた鉱山氏たちにも元気がよみがえってくる。

ところが踊り子の一人テスを恋する本物のザングラーが現れたので、ボビーもポリーも大混乱・・・でも最後には恋人同士は結ばれて古きよき時代のアメリカ・ミュージカルのフィナーレとなる。

年度末のお勧め

踊り子たちの人気者ボビー

ブロードウエイで「クレージー フォー ユウ」が上演されていた時代は、「レ・ミゼラブル」、「蜘蛛女のキス」、「ミス・サイゴン」など本場のブロードウエイ物より社会問題を取り上げた英国物が切符も取れないくらいの大盛況で、「クレージー」は苦戦していた。

そのせいか「クレージー」では積み上げた椅子をバリケードに見立て、その頂上でボビーに赤旗を掲げさせて学生革命家をパロディたりしている。

ところで社会問題派に対抗して、歌と踊りで勝負する本場物は”スラップ ザット ベース“(ベースを弾き鳴らせ)のナンバーでは踊り子たちのセクシーな体をベースに見立て、彼女らが身長一杯ぴんと張ったロープを荒くれ男たちが叩き鳴らし、男たちが鉱山用のつるはしを振り回す前では踊り子たちは採金用の皿の上で縦横無尽にタップ踏み鳴らす。上品な四季の観客たちが思わず「ブラボー」と叫ぶ場面である。

「エンブレーサブル ユー」「サムワン トウ ウオッチ オーバー ミー」等など劇場をでてからも、馴染み深い音楽が耳の中で鳴っている。

確定申告で苦労した人、年度末で肩が凝ってたまらない人、ともかく楽しい一時を過ごしたい人にはお勧めのミュージカルだ。

2006.3.20 掲載

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