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四季ミュージカル“CATS”

異空間での猫たちと観客の祭典

キャッツ・シアターの優雅なロビーから薄暗い客席に入ると、舞台があるはずの正面はロンドンなのかニューヨークなのか、都会の裏町のゴミだめ。猫の眼サイズから見た大きさの凹んだ薬缶、壊れたギターなど粗大ゴミが山積していて、観客にショックを与える。

ところが序曲が始まると、ステージは半回転してゴミの山は舞台後方に移動し、正面には四列の座席に座った観客が整然と現れる。からくり屋敷で体験するような臨場感で、観客から最初の大拍手が送られるところだ。この仕掛けはブロードウエイでロング・ラン上演を打ったウィンター・シアターには存在しなかった、四季オリジナルのトリックだ。

五反田に設立されたキャッツ専門劇場では空中ブランコ、かご抜け、バルコニーなど舞台装置も猫たちと観客を祭典に包み込み、劇場中をジェリクル猫の気分に高揚させてしまう。

ストーリー

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今宵は年に一度のジェリクル猫の舞踏会。人間に飼いならされるのを拒否し誇り高く生き抜くジェリクルたちが、都会の片隅に集まって満月の下で夜通し踊り抜く。ワイン・レッドのシャム雌猫タントミールはオープニングで神秘的にしなやかに踊り、元俳優の老雄猫アスパラガスはグロール・タイガー猫に変身して昔の海賊芝居を再現する。セクシーでワイルドな雄猫ラム・タム・タガーは仲間の雌猫を誘惑するだけでなく、客席にまで降りて女性観客を舞台に拉致する。24匹の猫たちが天井から通路から神出鬼没で縦横に走り回り、観客たちをドキドキさせる。

そして夜明け前の静けさの中で、長老猫オールド・デュトロノミーが選ぶ一匹の純粋なジェリクル猫が天上に登って永遠の生命を得る。それは仲間の猫たちから排斥されながら「メモリー」を唄って舞台の袖に消えていった年老いた娼婦猫グリザベーラであった。

劇団四季はミュージカルのメジャー・リーグか?

「キャッツ」-本日の出演者—リストを眺めると日本産猫13匹に対して中国産7匹、 韓国産4匹。ジェリクル猫軍団のほとんど半数は輸入猫だ。外国勢の多さは米国野球のメジャー・リーグに匹敵する。

なかでも、犯罪王猫マキャビティーの手から長老猫を奪還する中国産マジック猫ミストフェリーズ蔡暁強は、筆者がブロードウエイ初演以来ニューヨークと東京で十数回「キャッツ」を観劇した中での最適の演技者ではなかろうか?

堀内元もバレエ界からブロードウエイ・ミュージカルに「出張」してこの役を好演し、米国メディアに評価された。四季の東京公演では、鉄道猫のスキンブルシャンクス車掌の指揮下でJRの「いい日旅立ち」版まで踊って可愛かった。しかし猫軍団の上空を飛翔する大きなジャンプ、目にも留まらぬ片足高速回転のピルエット、客席から舞台へ足を天井にピンと伸ばしたままのバック転。曲芸バレエには恐れ入る。しかも動きの一つ一つが少年猫のように優雅でスピードがある。アッケにとられた満場から、一瞬の間をおいて割れんばかりの大拍手が送られていた。

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蔡暁強は1999年四季の「美女と野獣」北京公演後来日し「李香蘭」で初舞台を踏んだが、世界的にカバーされた主題歌「メモリー」を嫋々と歌い上げた韓国産グリザベーラ猫の金志賢は1998年オーディション合格し「キャッツ」でデビューした。彼女は今年度の「ライオンキング」3月間の韓国長期公演では、準主役としてソウルに凱旋する。 他にも2005年のオーディション合格者から中国・韓国各二名が出演している。

「アジアには四季のように研修所を持っているところがないからですよ」 四季側は謙遜するが、この分では「キャッツ」メジャー・リーグのロンドン・ニューヨーク公演もそう遠くではないのだろう。それにしても客席で握手したミストフェリーズの前足が動物の猫のようにプクプクしていなかったのが不思議だった。(キャッツ・シアターで公演中)

2006.6.5 掲載

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