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モナコ大公国 モンテカルロ・バレエ シンデレラ

ジャン=クリストフ・マイヨーの振付けるモンテカルロ・バレエは、象徴的でエスプリの利いた舞台である。お洒落で複雑でしかも難解そうにつくられているが、時として或る場面で「やっぱりそうだったのか」とネタが割れて笑える時がある。

シンデレラを求めて海原を渡る王子

それは、王子が花嫁を求めてヨットを仕立てて大海原を渡る場面である。その昔、モンテカルロ公国大公レニエ三世がフランスに統合されるか否かと公国の存亡を賭けてハリウッド女優グレース・ケリーを求めて大西洋と渡ったシーンではないか!そう解釈すると、一般観客にも鬼才マイヨーのこの「シンデレラ」の奇抜な演出が理解しやすい。

1949年モナコ大公に即位したレニエ三世が当時の君主としては晩婚だった理由として、ヨーロッパやハリウッドの社交界では大公がゲイではないかという噂があった。また、公国の収入源であるカジノにアメリカからの観光客を導入する秘策が考えられていた。

2幕冒頭の舞踏会で怠惰に酔っ払っている王子の友人たちはお互いにイチャツイたり、王子と踊ろうとする娘たちを妨害するのも噂のバレエ化と考えると分りやすい。マイヨーの仙女像はまたアメリカの経済力の強さでもあるのか?


ウーマン・パワー

高貴な王子がシンデレラに対してひざまずく

従来の仙女像といえば線の細い華麗な女性。ところが、ベルニス・コピエテルス演ずるシンデレラの亡き母である仙女はアスレティック体型。細身だが大柄で腕や太腿の筋肉の逞しさがダンサー離れしている。ゲイの友人と戯れる軟弱な王子をひっぺがし娘の元に向かわせるパワー、二度目の妻に気を使う気弱なシンデレラの父親のダンスに比べていかにも力強い。1956年レニエ三世とグレース・ケリー結婚当時に婚礼ブームでモンテ・カルロのカジノを満員にして欲しかったアメリカ女性なのかとも曲解するのも一興だ。

「女は強し母は更に強し」の具現化である。仙女となった母は、キラキラ輝く足を持つシンデレラをしっかり王子と踊らせる。更にシンデレラもトウシューズを脱ぎ捨てて力強く裸足で踊っている。 高貴な身分を忘れて王子は平民の娘の足元にひざまずき、「この女性こそ花嫁に」と希うのである。12時の鐘とともに消え去った彼女を野越え山越え、最後には大西洋を渡る大航海の旅に出る。豪華な宮殿を現したカーブしたアルミ板が、即ヨットの白帆に転換する洗練された舞台装置だ。


故グレース妃の意思を継いで

伝説の女優、故グレース公妃が復活させたバレエ団を、その娘であるカロリーヌ公女は世界から注目されるヨーロッパ・バレエ界のリーダーに育て上げた。芸術監督マイヨーの振り付けとエルネスト・ピニヨンの舞台装置、ジェローム・カプランの衣装はシャルル・ペロー原作の「シンデレラ」を寓話的なコンテンポラリー・ダンスに完成させている。

エピローグ 王子 仙女 シンデレラ 父親4人の愛のワルツ

この演出こそセルゲイ・プロコフィエフの現代音楽「シンデレラ」に相応しいのではなかろうか?

(7月8日 Bunkamuraオーチャードホール)







2006.8.14 掲載

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