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東宝ミュージカル マリー・アントワネット

帝国劇場では遠藤周作原作をヒントに世界初ミュージカル「マリー・アントワネット」が始まった。東宝が外注したのは「エリザベート」「モーツアルト」等ウィーン・ミュージカルの巨匠二人組ミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)とシルベスター・リーバイ(音楽)である。

クンツェは同じMAのイニシアルを持つ女性、王妃マリー・アントワネット(涼風真世)と貧しい孤児マルグリット・アルノー(新妻聖子/笹本玲奈Wキャスト)を対比させ、劇作者ボーマルシェと錬金術師カリオストロの二人を狂言回しにしてフランス革命の裏面を描く。(筆者は新妻で観劇)

ストーリー

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18世紀末パリの街角、孤児マルグリットはスミレの花束を売って暮らしている。やっと買ってくれたのはボーマルシェだが渡された小銭は唯のブリキ片。彼を追っかけて王の従兄弟オルレアン公の主宰する豪華絢爛たる舞踏会まで迷い込む。マルグリットはそこで自分と年恰好は似ているが境遇が天と地ほど異なる王妃マリー・アントワネットに初めて出会う。「人々にパンを」と懇願するマルグリットに、王妃は「パンがなければシャンパンを」と頭からシャンパンを浴びせ貴族たちと一緒に嘲笑する。

一方フランス社会の転覆を妄想するカリオストロはマルグリットを売春館の女主人に預け、彼女は自ら身体を売るようになる。更に彼女を利用して王妃を首飾り詐欺事件の罠にかける。彼女は復讐を誓い、やがて革命の闘士となって洗濯女たちを率いてバスチーユに攻め込む。嘗ての恩師シスター・アニエスの制止にも耳を貸さない。ところが自由平等を標榜しながら次第に憎悪と狂気で燃え上がる民衆の中で王妃として優雅に毅然と立つマリー・アントワネットに次第に人間として魅かれ、遂にマルグリットは革命軍の指令に背く。

しかし、頼みにしたオーストリア側の援軍も到着せず王妃MAは孤児MAと群衆の見守る中、巨大なギロチンの刃の下でその生涯を終える。

歌・美術・役者

マリー・アントワネットとアニエスの歌う「流れ星のかなた」、この二人に加えてカリオストロ、ボーマルシェ、オルレアン公、群集の合唱する「自由」など、シルベスター・リーバイの音楽は心に響く。観客を圧倒する禍禍しい巨大なギロチンの刃、マルグリットに浴びせられるシャンパンの銀粒の流れなど、大小のビジュアルの切れ味が良い。(美術島次郎)

役者は東宝の誇る日本のトップ・ミュージカル陣である。涼風真世はルイ16世の妻でありながら弟のような外国貴族フェルセンに次第に惹かれてゆくマリーの葛藤を熱演し、 新妻聖子の野性の孤児が革命の中で人間性に目覚めてゆく姿が魅力的だ。二人のMAが同じ故郷の歌を口ずさむのはマルグリットに流れる高貴な血筋を暗示する。

男性陣ではカリオストロの山口祐一郎とオルレアン公の高嶋政宏が存在感を示し、かっこいい。

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ところが構成に改良の余地がある。たとえば洗濯女たちを扇動して「バスチーユへ!」と勇んで向かったマルグリットが、なんと、又一人戻ってきてシスター・アニエスと闘争の是非を話し合う。劇の流れを戻してしまう。この場面は洗濯女を扇動する前に持ってきて欲しいものだ。また、狂言回しとしてのカリオストロとボーマルシェの役割分担が見えにくい。 

とはいえ「キャツ」「レ・ミゼラブル」など圧倒的に入超過剰の日本のミュージカル界。 凱旋公演までにシェープ・アップし、その後には英語版、ドイツ語版を欧米にライセンス輸出して欲しいものだ。東京公演はミュージカル・ファンにとって日本発ミュージカルを初演オリジナルナル・キャストで観劇できる滅多にないチャンスだ。
(帝国劇場公演12月25日まで)

2006.11.25 掲載

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