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コンタクト 三部作

トニー賞最優秀振付賞などブロードウエイの有力賞の数々を総なめにしたスーザン・ストローマン演出・振付の「コンタクト」がまた日本に戻ってきた。三部で構成されたコンタクトのメイン部「黄色いドレスの女性」は、なんと新国立劇場のプリマドンナ酒井はな! 筆者は運よく彼女のデビュー当日に観劇した。

「黄色いドレスの女性」

マンハッタン下町のプール・バー。近所に住む雑多な人種の若者たちがTシャツとジーンズのラフなスタイルで夜毎ディスコ・ダンスに夢中になっている。広告界の寵児として富も名声もほしいままにした後はなにもかも虚しくなって自殺願望に取り付かれたマイケル(加藤敬二)は、電話の連絡ミスでこのバーに迷い込む。スーツ姿のマイケルは生まれて一度も踊ったことがなく、場違いの彼の相手は中年のバーテンダーだけ。

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そこへ舞台中央プール・バーの扉がパッと開いて「黄色いドレスの女性」酒井はな登場! 一瞬のポーズは高貴さと神秘性を秘め、舞台のダンサーたちも客席の観客もハッと呼吸をのむ。ところが、である。その「黄色いドレスの女性」は右足のハイヒールの踵から舞台に進んできた。「やっぱりバレリーナの足の運びだ」と、筆者はその「愛嬌」に思わずニッコリ。

次々と誘いをかける男たちを切れ味の良いステップでさばく女性。マイケルは懸命で追いかけるが、若者たちのダンスの列に阻まれてしまう。翌夜もバーで待ち構えていると、正面の扉から再びこの「女性」が現れる(今回はヒールの爪先から舞台に登場)。マイケルは必死になって彼女にあわせて不器用にステップを踏みだし、二人の身体の「コンタクト」が重なるにつれてやがて彼女を支えて伸びやかに踊りだす。実は四季を代表する名ダンサー加藤敬二と新国立劇場プリマの酒井はなの心を揺さぶる見事なコラボレーションだ。

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ブランコ

第一部の「ブランコ」は18世紀フラゴナールの名画から抜け出したような森のピクニック風景。フランス貴族が若い従僕に揺らせたブランコにピンクのドレス姿のミストレスを乗せ、シャンパン・グラス片手にスカートの中の景色を楽しんでいる。ところが貴族がシャンパンの新しいボトルをとりに行っている隙に、ミストレスは従僕を乗せ二人でブランコを大きく揺らしながら大胆な体位を試す。

小柄で軟弱な貴族と異なり、従僕は野生的でセクシーだが、ミストレス役のクリスティン・ゼンダーがあまりにも明るく健康的なため、良くも悪くも「チャタレー夫人の恋人」の夫人と森番にはならない。つまり猥褻かどうかの判断無用。健全リミット内での「コンタクト(触れあい)」である。

「動いたな?」

第2部の「動いたな?」は1954年。舞台はニューヨーク市住宅地クイーンズ区のイタリア・レストラン。マフィアの小ボスらしい夫は、自分がビュッフェの料理をとりに行く間に青いドレスを着た専業主婦の妻がウエイターや他の客と触れ合わないよう「動くな!」と命じる。

ところが妻は夫がテーブルを離れる度に給仕長と踊り、客たちと触れあい、舞台に歌劇「アルルの女」が響く頃には男女の客、ウエイター、コックなどレストラン挙げてのダンスに興じる。挙句の果てはピストルで専横的な夫をピストルで射殺する・・・・だが夫がビュッフェ台から戻り「動いたな?」と詰問する時には、同じテーブルの同じ座席に座っている。彼女の人々とのコンタクトは抑圧されている妻の一瞬の妄想だったのだろうか?

四季はバレエ・ダンサーの客演をいつも効果的に生かしている。「コンタクト」をきっかけに酒井はなが時々トウシューズをハイヒールに履き替えてミュージカルで活躍することを期待したい。(四季劇場「秋」で上演中)

2007.2.16 掲載

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