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モダン・ミリー

宝塚の男役トップスターが退団後不安気に女優デビューする舞台を何度も見てきた。
ところがである、ミュージカル女優デビュー作“Thoroughly Modern Millie”で紫吹淳は”Thoroughly”(完璧に)Feminine Jun Shibuki に大化けした。

モダン・ミリー(演出・振付ジョーイ・マクニーリー/主催・企画フジテレビジョン)は、1920年代第一次世界大戦後のバブルに沸くニューヨークに、玉の輿に乗ることを目標にニューヨークに上京してきたカンサス州からの田舎娘の奮闘記。

ミリーはダサイ田舎娘からモダンな都会の娘に変身して町に繰り出した途端、スリに遭って一文無しに。偶然通りかかったお洒落な男性ジミー・スミス(川崎麻世)の勧めで女性専用の安ホテルに宿泊し、保険会社のタイピストとして働き始める。「モダン・ミリー」「昨日にグッドバイ」紫吹と女性たちの歌声の切れ味が快い。

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そこで出合ったハンサムな独身社長グレイドン(岡幸二郎)に目をつけて「これこそ玉の輿への道」と張り切り、猛烈なスピードで速記をとりタイプを叩いて無事試験を突破。社長秘書の座を獲得する。社長と女性社員の歌う「スピード・テスト」は迫力がある。ミリーとOLたちの机下でのタップダンスと指先で叩くパソコンならぬ旧式のタイプライターが改行毎に「チン」と鳴るのもレトロで懐かしい。

ところがホテルの経営者ミアース(前田美波里)は、中国からの移民洗濯夫チン・ホーとバン・フーを手先に使い身寄りの無い地方出身の娘を香港に売り飛ばす悪党で、社会経験のために投宿してきた富豪令嬢ドロシーを狙う。中国語の台詞が飛び交う場面には垂れ幕が下りてきてオペラ宜しく翻訳が映写されて観衆を笑わせる。

前田の怪演は豪快だが、台詞が類型的人種差別なのでニューヨークの中国人協会から抗議が来ないのかと客席を心配させたが、最終幕では「命がけで人身売買を防いでくれた」と感激したドロシーがチン・ホーに熱いキスをおくり、白人のグレイドンより中国人のチンを夫に選ぶという「政治的配慮」で観客の微笑を誘った。

さて、ジミーと再会したミリーは密造酒場でのチャールストン・ダンスで盛り上がる。紫吹のグリーンのドレスの裾飾りの動きがフェミニンでセクシーだ。「タイプライターに足がついたと思っている男と結婚したいのか」と問われ迷いだし、職場の電話では「Sincere Trust Insurance Company」と名乗るべきところを「Sincere Trouble Insurance  Company」と答えてしまい、会社を混乱させてグレイドンを怒らせてしまう。

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ミリーの「ジミー」、ジミーとミリーの「角を曲がると」。ミュージカル定番のラブソングも納得が行く。電話口に出ないミリーを求めてジミーは高層ビルの窓の外から彼女のオフィスに迫る。玉の輿より命がけのジミーの求愛を選んだミリーはジミーの義理の母、大女優のマジーより、実はジミーは大財閥当主でグレイドンの親会社社長と告げられる。

お金より愛を選んで最後は目的の玉の輿まで得たミリー。ミュージカルはハッピー・エンドが一番だ。(4月17日 新国立劇場にて)

2007.5.2 掲載

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