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レ・ミゼラブル 帝劇20年目のロングラン

ミュージカル観劇の楽しみは劇場を出てからもつい先ほど見た舞台のステップを踏んでみたり、テーマソングを歌ったりする余韻にもある。

「レ・ミゼラブル」(脚本作詞アラン・ブ—ブリル 作曲クロード=ミッシェル・シェーンベルク 英語版作詞ハーバート・クレッツマー)は「ミュージカル」というより「ポピュラー・オペラ」。プロローグの鎖に繋がれたジャン・ヴァルジャンたちの「囚人たちの歌」、革命を求める学生たちの「民衆の歌」、死せる友を偲んでマリウスが歌う「カフェ・ソング」などステップは踏めないが、歌声が耳にまとわりついて離れない。

フランス大文豪ヴィクトル・ユゴーの「レ・ミゼラブル」は産業革命以前18世紀末のフランスで貧困と病苦に苦しむ悲惨な人々を描き、世界文学の古典となった。この音楽作品も1980年パリでの初演、英語版1985年ロンドン初演、その2年後にはブロードウエイに進出、12部門でトニー賞に推薦され、ベスト・ミュージカル賞、ベスト・オリジナル作曲賞を含む8部門で受賞、ミュージカルの古典として世界中で公演されている。


帝劇20周年記念公演

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1987年6月の帝国劇場初演以来14年間ジャン・ヴァルジャンを演じた鹿賀丈史は、今回ジャベール役で特別参加。ジャンと同じ下層階級出身の平刑事として執拗にジャン(別所哲也)を追い詰める。ならず者や娼婦の間で育ったからこそ「自分が法律だ」と頑なに信じて行動していたのに、最後にはジャンの人間としての大きさに圧倒されてセーヌ川に身を投げる姿に哀愁が漂う。

日本で始めてオーディションによる配役を決定したという歴史を持つこの作品は、コゼット(辛島小恵)、彼女の未婚の母フォンテーヌ、(シルビア・グラブ)、旅篭屋の娘 エポニーヌ(坂本真綾)などミュージカル・スター勢ぞろいで、その歌声は今回も会場の涙を誘っていた。

シンガーが多いキャストの中で、悪徳旅籠屋夫婦テナルディエ夫婦(斉藤晴彦、阿知波悟美)の歌と飄々とした動きだけはミュージカル風だった。

また、「レ・ミゼラブル」は男性若手俳優の活躍が目覚しい。

列に入れよ 我らの味方に
  砦の向こうに 世界がある
  戦え それが自由への道

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学生リーダー、アンジョルラス(岡 幸二郎)は「民衆の歌」で盛り上げて学生と無産者階級をまとめてパリを行進するが、市街戦が始まると民衆は坊ちゃんたち学生を見捨て、砦には来ない。学生たちは全滅、かろうじてエポニーヌの知らせで駆けつけたジャン・ヴァルジャンが瀕死のマリウス(泉見洋平)を見つけ、下水道を伝って逃れる。

筆者の不満を言えばパリ街頭に設けられたバリケードの高さが帝劇の舞台の額縁に対して低く小ぶりなこと。ブロードウエイのインペリアル・シアターでは天井を突く高さのバリケードであったからこそ、回り舞台がぐるりと回転して現れる、赤旗の上に逆さまに横たわる英雄アンジョルラスの姿が映えた。

言葉にならない痛みと悲しみ
  空の椅子とテーブル
  友はもういない
  自由を夢みて炎と燃えて
  共に歌ったその日は来ない

アンジョルラスを失った悲しみを嫋々と歌い上げるマリウスのテノールの響きが美しく、女性客の涙を誘っていた。

ヴィクトル・ユゴーの群集劇に大物から若手まで東宝スターの勢ぞろい。しかも観客の一人一人が共感できる役柄がある。だからこそミュージカル史上ロングラン世界第3位に数えられるのであろう。(帝国劇場公演 8月27日まで)


2007.6.28 掲載

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