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三島由紀夫氏命日11月25日に千秋楽 劇団四季の鹿鳴館

鬼才三島由紀夫の「鹿鳴館」は各劇団に節目節目に上演され、「これぞ日本語による最高のストレート・プレイ」として演劇ファンを満足させている。

ヒロイン、内閣閣僚影山伯爵夫人朝子はかって文学座の杉村春子、新派の水谷八重子(先代)などによって演じられた。なかでも着物の裾を引く水谷の立ち姿の美しさが目に焼きついている。舞踏会のローブ・デコルテに衣装を替えても日本舞踊の名手として自然に反らしている背筋の曲線の見事さに元新橋芸者の意地と誇りが示され「ぽーっと」感心して見ていた。

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今回の四季公演を見るまでは三島由紀夫の台詞まわしはともかく、ミュージカル育ちの野村玲子には元芸者の所作を演じるのは厳しいのではないかと心配していた。

ところが、である。深慮熟謀の夫、景山伯爵(日下武史)の裏切りにも、別れた恋人で反政府運動の志士清原永之介との再会も、芸妓界の修羅場を生き抜いた女として凄みのある美しさで男たちを捌いてゆく。「200回も元芸者を演じていれば元芸者朝子になれるよ」と古くからの四季ファンは筆者に威張って宣言したが、まったくその通りだった。

鹿鳴館時代の評価は賛否両論に分かれる。欧米に追いつくのを急ぐあまり、「華族、軍人が滑稽な猿真似で日本人として恥さらしをした」という一方、「だからこそ国際社会に受け入れられた」という弁護である。

浅利慶太演出は土屋茂昭の舞台装置によってこの鹿鳴館時代という時代の二面性を的確に表現した。一幕は伝統文化の象徴である菊花開く端正な日本庭園、二幕は煌びやかなシャンデリアが輝く文明開化の出発点、華麗なる鹿鳴館。舞踏室での貴賓たちのダンスは一見華やかに見える。しかしバルコニーの窓に映る影絵は風刺画家ジョルジュ・フェルディナン・ビゴーの「鏡に映った猿」を思い出させる貴賓たちの愚かな努力を隠せない。

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プレス・クラブのライブラリーでは今なお“Yukio Mishima”ファイルが大切に保管されている。なかでも、Newsweek誌1970年12月7日号の刃を突きつけられながら剣道着姿で正座する三島を表紙写真とし、「70年代のSamurai。輝ける作家、情熱あふれる中世主義者」とした特集号などは三島由紀夫の命日が近づくと現役ファイルとなって活用される。

今回の公演は11月25日で千秋楽を迎えるが、次回の劇団四季の「鹿鳴館」公演はいつになるのだろうか?(四季 自由劇場)

2007.11.25 掲載

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