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ラ・バヤデール

正直に言って東京バレエ団がこれほど実力をつけてきたとは驚きであった。
 「ラ・バヤデール」は古代インドを舞台に、異教のエキゾチズムとロマンティック・バレエ、屋台崩しと見所が盛沢山なスペクタクル大作品。下手をするとダンサーが舞台装置と衣装に埋没してしまうおそれがある大作だ。

今まで世界の舞台ではバレエ・ブラン(ロマンティックな影の王国の場面)やフィナーレの大屋台崩しがカットされて上演されてきた。

ところが元キーロフ・バレエのスター、ナタリア・マカロワ振付演出による今回の公演は、カットなしの全3幕完全上演。おまけに東京バレエ団はミラノ・スカラ座製作による衣装と舞台装置を我が物として使いこなし、バレエ・ダンサーの表現力を飛躍的に高めている。

「人形も衣装」というが、イタリア製の衣装に日本人の体型がグレード・アップされ、インドのサリー、パンジャップ・パンツとバレエのチュチュがまったく自然にコラボレーションしている。

第1幕はエキゾチズム豊かな古代南インド。寺院の巫女で舞姫であるニキヤ(吉岡 美佳)と戦士ソロル(木村 和夫)は恋仲で結婚を神に誓っているが、寺院を司る大僧正(後藤 春雄)はニキヤに横恋慕。おまけに戦士ソロルは国王に王女ガムザッティーとの結婚を命じられ、権力と彼女の美貌に心を動かされる。大僧正、国王、サリー姿の巫女たちなどインド情緒を盛り上げる。吉岡の伸びやかな手足をしっかり支えるコンビの木村が雄雄しい。

ニキヤは婚約祝賀の席で舞うが、花籠に隠された毒蛇に噛まれてしまう。大僧正は解毒剤を渡すが、ソロルを失った舞姫は薬を飲まずに呼吸絶えてしまう。

第2幕が影の王国。幻影の場面。
 ロマンチック・チュチュに身を包んだコール・ド・バレエが一糸乱れず端正な姿でスロープを降りてくると、客席がどよめいて大きな拍手が送られる。世界にバレエ団は数多いが、全員が一体となって一生懸命に舞台を務めるコール・ド・バレエは東京バレエ団の強みではなかろうか。

「影の王国」コール・ド・バレエ

アラベスクから回転するランベルセの背中の美しさも、ロシア・バレエの特徴を見事に表現している。

第3幕の婚礼祝賀の寺院では、松下裕次のブロンズ像のアクロバティックなダンスが見もの。破滅の前の一瞬の華やかさを盛り上げる。

そして大屋台崩し。誓いを破った戦士ソロルと王女ガムザッティーの婚礼を怒った神は大仏像、寺院を大破壊。土煙が収まった境内には白いスカーフを靡かせた舞姫ニキアの幻影が現れ、戦士ソロルの魂を天上へと導いてゆく。

日頃、欧米ロシアのバレエ観劇に参加するプレスクラブのバレエ好きたちに「たまには日本のバレエ団も」と同行したのだが、東京バレエ団の気迫と実力に圧倒されていたようだ。

バレエ団創立以来45年の継続は正に力なり。力があるからチャンスが来れば大飛躍できるのだ。次の公演を楽しみにしよう。
(9月26日 東京文化会館)

2009.10.17 掲載

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