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The Wedding Singer

開幕前に「誰かにプロポーズしたくなるミュージカルWedding Singer!」と主役ロビーの井上芳雄自身の場内アナウンスがあったが、王子様でも王女様でもない等身大の若者が思い切りハジケる最高の「婚活」ミュージカル。井上の好演が客席の共感を呼ぶ。おばあちゃまも同伴すれば、二世帯住宅のアテも付くかもしれない。(音楽:マシュー・スクラー 脚本:チャッド・べグリン/ティム・ハ—リヒ 演出:山田和也)

時代はバブル景気に向かおうとする1985年。マンハッタンの喧騒から離れてイースト・リバーを渡った対岸のニュー・ジャージー州。退屈な庶民的住宅地リッジフィールドの“Touch of Class Catering hall”は地域の若者の結婚パーティー会場。(上流社会のタッチといいながら看板のhallのhが小文字のままなのは、住民の杜撰なセンスを皮肉っているのか?)

オープニングは結婚披露宴。花嫁、花婿、ブライド・メイド、ベスト・メン、ゲストたちが踊りながら通路奥より登場。客席も手拍子でノリノリの歓迎で盛大に幕開け。

舞台の始まりは披露宴。バチェラー・パーティーの続きでベロベロに酔ったままの新郎の兄が新郎新婦の旧悪を暴露したスピーチ。夫婦喧嘩が始まってすは離婚かと心配されたが、結婚パーティー専属バンド“New Jersey Happiness Trio”のウエディング・シンガーであるロビー(井上芳雄)のとっさの機転で救われる。メジャーのアーティストを目指すロビーは、自分の結婚式を翌日に控え最高にハッピーなのだ。

宴会場のウエイトレス、ジュリア(上原多香子)も恋人の証券マン、グレン(大澄賢也)の求婚をウキウキと心待ちにしている。

ところがロビーの婚約者リンダは当日になってドタキャン。トリオはロビーの挫折で、稼ぎ先である結婚式場のパーティーを降り、ユダヤ教の通過儀礼である、少年13歳時に親族一同を招いて行うバー・ミツバ・パーティーに出演する始末。「ヘブライ語は勘弁してよ」とキリスト教のアーメンで歌を終えるいい加減ぶりがまた笑える。

退屈な週日を終えるとマンハッタンのディスコでのエキサイティングな“Saturday Night in the City”が始まる。
  宴会場の先輩ウエイトレス、ホリーが現れ、お立ち台でのセクシーダンスに頭上から水がザンブリ。バンド仲間のサミーとホリーの“I am 馬鹿”Tシャツコンビのダンスもハジケている。

ミュージカル「Wedding Singer」

ハジケている方ではボビーのおばあちゃまロージー(初風諄)はもっとハジケている。自宅ではイヤフォンを聞きながらエアロビックスならぬ「懐メロビックス」に熱中する元気ぶり。踊りだせばチャールストンからフレンチ・カンカンのスプリットまで。自宅の地下室に居候(?)させているボビーの結婚祝いにモテルの中古品で25セントを入れると振動するベッドを贈るほどの理解ぶりだ。

ウォール街のグレンは、当時最新流行の肩掛け式携帯電話でいつも金儲け話に夢中。“All about the Green”(金のすべて)でクールなスーツに身を固めたスタッフとドルの威力を自讃するダンスがなかなかカッコイイ。

グレン多忙のためジュリアの結婚式用の買い物に同行したロビーは、結婚式の予行演習でキスしたことをきっかけにお互いの気持ちに初めて気が付く。

ロビーはジュリアと結ばれるのか、元婚約者のリンダとグレンの思惑は?

東北関東大地震後でありながら、シアタークリエには開場前に大勢の観客が詰めかけている。地震、津波、原発事故と三重苦の時こそ、大いに笑ってハッピーになるこのミュージカルには元気づけられる。(シアタークリエ3月29日まで。その後4月26日まで全国巡業)


2011.3.31 掲載

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