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シアタークリエ舞台版「ゲゲゲの女房」

NHKの連続テレビ番組で平均視聴率18.6%をとり、最終10週はビデオリサーチ視聴率総合一位を占めた「ゲゲゲの女房」が舞台化された。
  水木しげる氏(本名:村野しげる)の出身地鳥取県境港市の市民会館での9月23日のお披露目を皮切りに、東京シアタークリエを中心として全国16箇所の劇場や市民会館で11月7日まで上演される。


懐かしい人情と風景

「ゲゲゲの女房」(原作:武良布枝 脚本・演出・美術:東憲司)は鬼才漫画家、水木しげるとその妻布子の極貧時代の貸本漫画家からようやく売れ出すまでのものがたり。
  舞台冒頭は墓場。おどろおどろしい立木の間に蝶々が舞い踊り、妖怪たちが新婚の二人をとりまく。水木妖怪ワールドの始まりだ。

シアタークリエ舞台版「ゲゲゲの女房」

見合いからわずか5日後に境港市出身の貸本屋用の漫画家、村野しげる(渡辺徹)と結婚した島根県安来市出身の布子(水野美紀)は、都会で暮らせるのが楽しみで嬉々として東京に向かうが、調布市のしげるの仕事部屋兼住居は隙間風の吹き込むあばら家で、しかも二階を他の漫画家に貸している始末。
  貸し本屋からはまともに原稿料は払われず家賃も滞り、新婚早々富子は質屋通い。それでも布子は夫の才能を信じて明るく家庭を守っている。家賃を溜めに溜めながら漫画を描いている間借り人、売れ残りの野菜やバナナを差し入れする八百屋の女将さんとの掛け合いに昭和という懐かしい人情と時代が感じられる。

質草もなくなり、頼みの貸本屋が潰れるなど辛いことや泣きたいことが続くとどこからともなく人間のあとをつけるのが好きな妖怪「べとべとさん」が現れる。彼は仲間の妖怪を呼び寄せて二人を見守っている。

戦後からの紙芝居屋(大和田獏)や貸本出版屋(梅垣義明)は義理人情に厚く村野を支えるが、時代が変わりテレビが家庭に入ってくると二人の生業が立ち行かなくなる。一方、日本が高度成長に向かうにつれて漫画雑誌が出版され、村野の個性的な作風を理解する新たな読者層が生まれてくる。布子も絵筆を取って人物の衣装にセンスを示すなど分業制作となり、「水木プロダクション」が誕生する。

水木しげるが日本漫画界で認められた日、村野夫妻と妖怪たちは舞台狭ましと安来節を踊る。
  水野美紀の布子は明るく度胸が据わっていて、これなら旦那を育てられると納得がゆく。渡辺徹の村野は大らかに太っていて極貧時代も観客に惨めさを感じさせないのが「傷に玉」だろうか?

東憲司の舞台は昭和の日本風景を再現し活字や映像以上に俳優の温かさそのものを感じさせる。
  東北大震災以来、閉塞感で押さえられている日本各地に笑いと人情を届けてほしいものだ。

シアタークリエ舞台版「ゲゲゲの女房」

2011.10.18 掲載

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