WEB連載

出版物の案内

会社案内

新国立劇場のバレエ公演は、シーズンごとに演目、ダンサーが充実してきて心強い。

大原永子新芸術監督がシーズンの幕開けに選んだのは英国ドラマティック・バレエ「ホフマン物語」。詩人で作家のE. T. A. ホフマンの短編を元にしたスコティッシュ・バレエの創立芸術監督・振付家ピーター・ダレルの1972年作品で、大原芸術監督が同バレエ団でダンサーとして活躍した縁から今回の「ホフマン物語」日本初演が実現した。

プロローグはオペラ座のある街角のカフェ。今はもう老境に差し掛かったほろ酔いの作家E. T. A. ホフマンの前で、若い友人たちが元気に踊る。滞空時間の長いジャンプが心地良い。友人たちにせがまれたホフマンは昔の三つの恋を語りだす。

福岡雄大は老いてなお浮名を流す人ホフマンから回想しての青年時代まで見事に踊り分け、共演する3人の女性ダンサーもそれぞれの持ち味を発揮する。

若き日の恋を回想する老詩人ホフマン(福岡雄大)

第一幕、第一の恋ではホフマンが魔法の眼鏡をかけたため人間と思った機械仕掛けの人形オリンピア(長田佳世)は可憐な女の子と不気味な人形を正確に浮き彫りし、第二の恋では催眠術にかかり自分をバレリーナと信じてピアノに合わせて踊り狂った果てにホフマンの肩に倒れて死ぬアントニア(小野絢子)にはエレガンスがある。

自らをバレリーナと信じ踊りぬいて息絶える
アントニア(小野絢子)とホフ マン(福岡雄大)

第二幕はお馴染みのホフマン物語のテーマ・ミュージックでエキゾチックなアラビアの世界。全員でアクロバティックなダンスが展開する。ホフマンを魅了したのは高級娼婦ジュリエッタ(米沢唯)。黒いマントの下は赤いドレスで官能的なダンスが華やか。ホフマンに迫るが、鏡に映らない姿から魔性の女と見破られ、木製の十字架を掲示されると全員と共に鏡の中に消える。

高級娼婦ジュリエッタ(米沢唯)に惑わされるホフマン(福岡雄大)

スコティッシュ・バレエで「ホフマン物語」の女性全主役を踊ったという大原芸術監督の指導のもと、其々が役の個性を自信を持ってのびやかに表現している。場面毎に姿を変えてホフマンを痛めつける悪役ドクターミラクル、ダーパテュート等を演じるマイレン・トレウバエフに迫力があり、舞台を引き締めている。

「ホフマン物語」は新国立バレエのレパートリーとして今後とも上演してほしい演目だ。(新国立劇場 初演10月30日)


2015.12.25 掲載

著者プロフィールバックナンバー
上に戻る