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West Side Story ウエストサイド物語

「これこそ私の観たかったオリジナルの日本語版ウエストサイド物語!」

シェークスピアの「ロメオとジュリエット」をニューヨークの非行少年グループのトニーとマリアの純愛物語に置き換えたミュージカルは、音楽レナード・バーンスタイン、台本アーサー・ロレンツの超がつく名大作だが、筆者はその日本語版にはどうも馴染めなかった。

たなか浩一氏による今回の日本語台本改定は大胆に人種差別語、移民差別語を飛び交わせ、貧困で大都会の底辺で生きる若者たちの憎しみと痛みを観客の心臓に直接ずぶずぶ刺してくる。たなか氏は「オリジナル台本に有った台詞です」と平然と語るが、ニューヨークに暮らした筆者としては、この新演出に出会うまでこの作品を底辺の人間同士の憎しみが感じられない、劇団四季の良家の子女俳優が演じる「非行少年ミュージカル」として敬遠してきたのだ。

ウエストサイド物語
ジェット団とリーダーのリフ(松島勇気)

「クラプキ巡査どの」の歌では社会の病気とラベルを張った教育者や社会事業家を声色を使って皮肉る。「おふくろマヤクで おやじアル中 おやじはテテなし子 ママはキチガイ じじいは飲んべで ババア マヤク」

ポーランドから移民してきた親は英語を話せないままなのに、(アメリカで生まれ市民権を持つ)若者はアメリカ人なみの給料をもらえるのがプエルトリコから移住した若者にとって許しがたい。

台詞ばかりではない。今回のジョーイ・マクニーリーによる、オリジナル(演出・振付ジェローム・ロビンス)再現のダンス・ナンバーがまた激しい。

ポーランドなどヨーロッパ系移民のジェット団とプエルトリコ系のシャ―ク団の、ダンス・パーティーで炸裂する音楽にのってそれぞれが激しく踊るアメリカン・マンボとラテン・マンボの切れ味。男たちが差別と縄張り争いに夢中になっている一方、プエルトリコの女たちは新しくアメリカで得た自由を楽しむスペイン風のダンスと歌「アメリカ」。なかでも一番かっこいいのは「ウエストサイド物語」のもう一つのシグネチャー・ ナンバーともいえるジェット団がフィンガー・スナッピングで歌い踊る「クール」。

主題歌的な「サム ホエア」(いつかどこかの平和な場所で)、「トゥナイト」や「マリア」は曲として美しいが、「クール」のインパクトだけは他のミュージカルでは真似ができないだろう。

ウエストサイド物語
ウエストサイド物語
上段:右 マリア(山本紗衣)左 アニタ(岡村美南)
下段:右 シャ―ク団、中央 トニー(神永東吾)、左ジェット団

はずみと誤解の抗争の果てに殺されたトニーの亡骸をやっと和解したジェット団とシャーク団の若者が高く捧げて歩き出す。「サム ホエア」の旋律が静かに流れるなか葬列の最後を歩むマリアの毅然とした姿が「ウエストサイド物語」の最後を引き締める。(2016年2月14日より5月8日まで/於:劇団四季劇場「秋」)


2016.2.18 掲載

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