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舞台「ライ王のテラス」

主役のライ王を務める鈴木亮平の鍛えに鍛えた肉体。これには「精神の強靭さが肉体に表現されるべきだ」と信じた三島由紀夫も満足するのではなかろうか?

カンボジアの城塞都市アンコール・トムから着想を得て完成させた三島由紀夫最後の戯曲「ライ王のテラス」で、演出宮本亜門は完璧な三島ワールドを作り上げた。

舞台「ライ王のテラス」
物語冒頭のカンボジア・ダンサーによる伝統舞踊アプサラ・ダンス

12世紀末、長い闘いから凱旋する輝くばかりの若い王ジャヤ・ヴァルマン七世を宮中も村人たちも歓迎するが、一抹の不安を暗示するのは裸の上半身の左腕に現れたバラの花紋。やがてそれが全身に広がり、王はライ病(ハンセン氏病)に冒される。

王は勝利を御仏と民の力の賜物として、アンコールワットにも劣らないバイヨンと名付ける寺院の建立を思い立つ。病の深まりと並行して、若い棟梁の手からなる寺院は王宮のテラスの正面で着々と進行する。三島文学の読者として、自らの芸術の成就と肉体の衰えを感じた三島が「豊饒の海」四部作完結と同時に自衛隊のバルコニーで演説し、自決に進んだシナリオと重なる。

舞台「ライ王のテラス」
[舞台「ライ王のテラス」の写真]



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王の愛するのは蛇神ナーガただ一人。ナーガに嫉妬する第一王妃も感染し、宰相と関係する皇太后は美しい息子が朽ちてゆく姿を見るに堪えず、第二王妃に王の毒殺を命じるが失敗。王位を狙う宰相を殺めた皇太后は第二王妃を犯したというのは彼の大嘘と王に告白し、巡業の中国人サーカスと共に国を去る。

舞台「ライ王のテラス」
第二王妃(倉科カナ)が侍る王(鈴木亮平)は既に全身を覆われている。

病が進んで目が見えなくなった王は、第二王妃が語るテラスから見える寺院の詳細に自分の精神と肉体が寺院に姿が替わって昇華したことと納得して彼女を去らせ、たった一人寺院と対面しながら息を引き取る。

舞台「ライ王のテラス」
完成したバイヨン寺院の仏陀の前に立つジャヤ・ヴァルマン七世王(鈴木亮平)

カンボジアの史実によるこの舞台は伝統の祈りと影絵で始まる。「ライ王のテラス」には宮本氏がカンボジアでオーディションした男女のダンサーや音楽家たちが参加している。国際交流基金が立ち上げたアジア・センターなどの協力で、カンボジアに凱旋公演できないものだろうか?(2016年3月4日から17日 赤坂ACTシアター)


2016.3.12 掲載

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