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ミュージカル「王家の紋章」

一昨年、特派員クラブでジャーナリストたちと懇談中にウイーン・ミュージカルの巨匠シルヴェスター・リーヴァイさんは「次の作品は思いがけないものになる」と漏らしていたずらっ子のように微笑んだが、日本の超有名な少女漫画が彼の作曲、編曲で壮大なSFミュージカルとなった。脚本・作詞・演出は荻田浩一、美術・二村周作、衣装・前田文子。

「王家の紋章」(原作細川智栄子あんど芙~みん)は月刊プリンセスで1976年に連載を開始、時空を超えたファンタジーは以来現在まで40年間描き続けられ、単行本61巻、総発行部数4000万部に上る漫画界の超大作である。


ストーリー

古代エジプトに魅せられ、考古学を学ぶ現代アメリカ娘キャロル(宮澤佐江と新妻聖子のWキャスト)は、財閥の総帥兄ライアン(伊礼彼方)の資金提供を受けた発掘チームに参加し、3000年前のファラオ・メンフィスの未盗掘の墓を発見する。黄金の玄室の人型棺に眠る少年王の傍らには干からびた花束。

古代の恋人たちに思いを寄せ、学術のためとはいえ墓を暴くことは死者への冒涜になるのではないかと不安を抱くキャロルは兄に報告するが、事業家の兄はエジプト発展のためと答える。そこに現れた黒い影が、メンフィス王を愛する下エジプトの女王で神々の祭司である異母姉アイシス(濱田めぐみ)。キャロルを時空を超えて現代から3000年前の古代エジプトに連れ去る。

ナイル川の岸辺で倒れているところを奴隷たちに助けられたキャロルは、古代エジプトにタイムスリップしたことを悟る。折しも年若いメンフィス(浦井健治)がファラオとして上下エジプトを統治することを祝賀する大行列。キャロルはファラオの顔が発掘された少年王とそっくりなことに驚く。

ミュージカル「王家の紋章」
[ミュージカル「王家の紋章」の写真]



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奴隷の少年の助けを借りて工事現場の労働者として紛れ込むが、頭を覆う布が外れ金髪と白い肌が偶々視察に来ていたメンフィスの目に留まる。

キャロルを奴隷扱いし、対等の立場で反論するキャロルを王者として屈服させようとしたメンフィスも、泥水を砂利で濾過する手法、蝮に噛まれた時に彼の命を救った救急処置、鉄の鋳造で軍事国家となった隣国ヒッタイトに対する観察などキャロルの現代的知識を認識し、やがてキャロルを愛し妃として迎えようとする。

血統を守るため兄弟姉妹同志で結婚する風習のある古代エジプトでは、実姉アイシスがキャロルとの結婚を阻止するためエジプトの分断を画策するが、老宰相イムホテップ(山口祐一郎)はキャロルこそナイルの娘、エジプトの繁栄をもたらす女性と考えアイシスを説得する。

一方、エジプトを侵略しようと試みるヒッタイト王子イズミル(宮野真守と平方元基のWキャスト)も、キャロルに惹かれ拉致する。キャロルを巡ってヒッタイトとエジプトの戦いが始まるが、キャロルは愛するメンフィスのため時空を超えたまま古代エジプトに残ることを決意する。

エジプトの人々が祝福する中、豪華な婚礼衣装を纏ったメンフィスとキャロルは華やかに行進する。

ミュージカル「王家の紋章」
時空を越えてキャロル(宮澤佐江)とメンフィス王(浦井健治)は結ばれる。
後方は宰相イムホテップ(山口祐一郎)

浦井健治のメンフィスは凛々しく気品があり、太刀捌きも見事だ。キャロルの新妻聖子の歌唱力は圧倒的だが、今回帝国劇場デビューの宮澤佐江の向こう見ずで可憐な姿も捨てがたい。イズミルの宮野真守には砂漠の民の野生が、平方元基にはヒッタイトの文明を創造する知性が感じられる。濱田めぐみは個性的なアイシスを手慣れた様子でこなし、イムホテップ宰相の山口祐一郎は全キャストを引き締めている。ただ歴史に刻まれたエジプトとヒッタイトの戦いでエジプト軍の青銅の剣とヒッタイト軍の鉄剣の幅が同じなのがちょっと気になる。

「王家の紋章」8月公演は全日程即日完売し、2017年4月の再演が決定した。(8月3日~27日 帝国劇場)


2016.8.27 掲載

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