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ミュージカル「ナイスガイinニューヨーク」

筆者の席の真後ろに座っていたカップルが10分ごとに笑い転げ、「これが今年の笑い収め!」と宣言していたが、コメディーの名手ニール・サイモン原作、福田雄一上演台本・演出の「ナイスガイinニューヨーク」は年末の慌ただしさを忘れさせるジョークとパロディー満載のWell made comedyだ。

加えて映画版「ナイスガイ ニューヨーク」でフランク・シナトラのために書き下ろした名曲とシナトラの十八番などを井上芳雄が英語で歌う。観客がご機嫌になるのも無理はない。筆者は二回も観劇した。

これは米国が順調に繁栄を楽しんでいた1960年代の話。マンハッタンのアパートで父親の会社のセールスマンとして働きながら独身生活を満喫しているプレイボーイのアラン・ベーカー(井上芳雄)の元に、21歳の誕生日を迎えた弟、バディー(間宮祥太朗)が家出して転げ込んでくる。

ミュージカル「ナイスガイinニューヨーク」
アラン・ベーカー(黄色ジャケット/井上芳雄)は弟バディー(間宮祥太朗)をプレイ・ボーイに特訓する。

一代で果物のサンプル会社を立ち上げ成功させた父親ミスター・ベーカー(高橋克実)は期待外れの兄を諦めて次男を現場で厳しく働かせている。ところが弟も父親の元から離れて作家になる夢を求めているが、父親がオッカナクッテ直接話すことが出来ずベッドに置手紙してくる状態。

アランはスコッチをヤクルト割で飲む弟に「60歳で手に入るのは年金で女の子ではない 派手にブチカマセ (Blow your horn)」と焚きつける。

    Make like a Mister Milquetoast and you'll get shut out
    Make like a little lamb, and wham, you're shorn,
    I tell ya, chum, it's time to come blow your horn.

兄弟が落ち着く間もなく、アランの部屋には当時のコミュニケーション道具である電話が次々と掛かり、ガール・フレンドの売れない歌手コニー・デイトン(吉岡里帆)や階上に住む女優を目指すペギー・エヴァンス(愛原実花)などが舞い込んでくる。息子たちの食事を心配した母親ミセス・ベーカー(石野真子)も夫に内緒でアパートを訪れ、次々と掛かってくる電話の伝言を取るための鉛筆探しに一苦労。兄のコーチングのお蔭で堅物の弟もお洒落なプレイボーイとなる。

電話が鳴り響き、ドアが開くたびに観客が予測した登場人物が現れると思いきや意外な姿が。ついにミスター・ベーカーまで。このミスター・ベーカーがドナルド・トランプのそっくりさん。金髪のひさし頭で真っ赤な勝負ネクタイを締めている。

ミュージカル「ナイスガイinニューヨーク」
アランのアパートに現れた父親ミスター・ベーカー(高橋克実)に驚くアランとバディーの兄弟。
ハラハラして見守るのはミセス・ベーカー(石野真子)

上演ごとにアドリブが増え、12月24日には井上が愛原を真似て「ブヒ・ブヒ」と豚の鳴きまねソングを歌い踊って満場の拍手喝采を浴び、また、クリスマス・イヴ観客サービスとして12列24番席の女性に全キャスト署名入りのプログラムが贈られた。

男性3名女性3名のこぢんまりしたキャストが気持ちよさそうに舞台を務める。年度末の忙しさをちょっと抜け出して観劇したい小品だ。(12月27日までシアタークリエ)


2016.12.25 掲載

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