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氷川きよしの「ねずみ小僧次郎吉」

「箱根八里の半次郎」を歌い上げて22歳で輝かしくデビュウし、その後17年間子どもから大人まで圧倒的に人気を集めてきた歌手、氷川きよしは30代最後の年にあたるこの6月に明治座で四度目の座長公演を行っている。

まず明治座前の長蛇の列に驚いた。圧倒的に多いのは中高年の女性グループだ。「順番に後ろに並んでください」としっかり観客同士が自己管理している。介助者に支えられた足の不自由なご老人には、流石にスタッフが駆け寄ってきて特別のエレベーター口へと案内していた。


 

ストーリー

「ねずみ小僧・次郎吉」の冒頭では、オープニングの音楽に合わせて会場から大きな手拍子。観劇会というよりは「きよし応援団大会」のノリだ。

舞台の堀切菖蒲園では6月菖蒲の花盛り。美濃屋四郎兵衛(青山良彦)が女房・八重(大信田礼子)、娘・小雪(工藤綾乃)と茶店で休んでいる。そこへ「やんぱち長屋」の女髪結い(星由里子)、蕎麦屋の女将(竹内都子)など、店子が大家(小宮孝泰)に連れられてやってくる。花火職人次郎吉もあやめを写生しながら登場。

氷川きよし「ねずみ小僧次郎吉」
日頃はのんびりしているが、腕の立つ花火職人(氷川きよし)

奥座敷からでてきたのは内藤近江守(江藤潤)と旗本副島佐平(中田博久)。鉢合わせした女中が内藤近江守の袴に茶をこぼしてしまうと、「これは南町奉行・鳥居様から拝領した袴」落とし前をつけろと茶店の女将を強請る。

折しも通りかかった北町奉行所の同心大久保伊織(篠田三郎)と岡っ引きの彦蔵(曾我廼家寛太郎)。美濃屋は長屋連中の前でその場を丸く収め、次郎吉は伊織から内藤近江守の周辺に悪いうわさが流れていることを知る。

その夜更け、内藤近江守の屋敷に忍び込んだ氷川ねずみ小僧。黒ずくめの姿でぴったりした股引がスリム・マッチョな身体を魅力的に見せる。彼はかどわかされていた娘たちを藏から助け、盗み出した千両箱を軽々と抱え、客席の間を縫ってファンとタッチしながらやんぱち長屋に姿を消す。

氷川きよし「ねずみ小僧次郎吉」
義賊。ねずみ小僧次郎吉(氷川きよし)

次は小雪が災難に会う。内藤近江守一党に目をつけられ、わざとぶつけてきて壊れた花いけが上様拝領品との言いがかりをつけられて、内藤屋敷に人質として連れ去られる。

一方、贅沢禁止令で子供たちが楽しみにしていた夏祭りが中止になるのを心配して寄り合っていた長屋の連中は、次郎吉から一党が無法を行っていることを知り夜中に内藤屋敷へ押しかける決心をする。それぞれ得意の武器は大槌、腕っぷしから髪結いの櫛まで。芸達者な脇役たちの持ち味がこの場面を盛り上げる。

内藤屋敷の暗闇の中でのだんまり捕り物もファン・サービス満点。合言葉は「山」と「川」だが、「山」に対して「氷川」と答える女髪結いの言葉に客席が沸く。

「ねずみ小僧は盗みはすれど非道はせず」屋敷の大屋根で啖呵を切るきよしの粋な姿に観客は大拍手大喝采!

フィナーレは美濃屋の好意で新しい印半纏を着た子供たちが打ち鳴らす太鼓。それより更に大きく響かせた、次郎吉のアヤメより豪勢な花火が江戸の夜空に舞い上がる。

内外のシアターにはよく通っているが、これほどハッピーな観客にはあまり出会ったことはない。市川正の脚本・演出は座長氷川きよしの人柄、ベテラン俳優たちの個性、ファンの好みの三点を外さない流石にこなれたものだ。

第2部は「氷川きよしコンサート2017 in 明治座」(氷川きよし特別公演 6月30日まで)

氷川きよしコンサート2017 in 明治座
氷川きよしコンサート2017 in 明治座

2017.6.11 掲載

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