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明治座「京の螢火」

織田作之助「蛍」、司馬遼太郎「竜馬がゆく」の二つの原作からわかぎゑふが脚色した「京の螢」は、黒木瞳が伏見の船宿寺田屋の女将お登勢として幕末動乱の中で志士たちの信頼を集めながらしなやかに強く生きる姿を描く。

冒頭、お登勢が花道から登場、白無垢、綿帽子の輿入れ姿で夕闇の中での蛍の乱舞するはかない姿に魅入るが、それは薩摩藩の討幕派と穏健派に分かれて若者同士が切りあう「寺田屋騒動」を示唆しているようだ。

綿帽子を少し掲げて蛍を眺める黒木の優雅な姿に満場の拍手が沸き上がる。

お登勢は姑のお定(沢田亜矢子)にギッチョ(左利き)の田舎者といびられながらも奉公人をしっかり監督し、伏見と大坂を往来する三十石船では漕手を増やして早舟として営業させ、商いを倍増する。やがては浄瑠璃狂いの変人、寺田屋の主人伊助(筧利夫)よりも姑に頼りにされるようになる。

トンビの鳴き声がのどやかな川辺の町にも時代の波は迫ってくる。川祭りの賑わいの中で元土佐藩の浪士坂本龍馬(藤本隆宏)はおりょう(田村芽実)を伴って寺田屋に投宿、お登勢を見込んでおりょうを預ける。

お登勢が丹精している菊の花を、龍馬の安眠のためにとおりょうが次々と切り取ってゆくのを見つめるお登勢の表情が見ものだ。龍馬の国家建設の思想に耳を傾け、彼に全面的に信頼されているもののおりょうの龍馬に対する一途な愛情に複雑な気持ちを抱いていたのではなかろうか?

薩摩藩の中村藤次郎(渡辺大輔)が龍馬を訪問中に新選組見回りが踏み込んだ時、おりょうは寝姿の長襦袢のまま龍馬に知らせる。フェンシングの剣捌きも取り入れた殺陣は見ごたえがある。激しい新選組と龍馬たちの戦闘の中で寺田屋の主人としての器量を見せたのが亭主の伊助。逃走のための小舟を用意し船頭に合図する。龍馬とおりょうを乗せた船が花道を遠ざかるのを見守る舞台では伊助とお登勢の肩に小雪がちらついてくる。

明治座「京の螢火」
お登勢とその夫・伊助(筧利夫)

寂し気な幕切れに一呼吸おいて幕があがれば明治座が「宝塚」に変身?ど派手なフィナーレ!登場者全員が「ひとみあんどとしお節」(黒木瞳作詞)で舞台狭しと踊りまくる。観客も巻き込んだフフィナーレのダンスは「オマケ」として実に楽しい。(11月11日 明治座)


2017.12.5 掲載

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