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日生劇場「屋根の上のヴァイオリン弾き」

“Tradition,”(伝統の歌)、“Sunrise Sunset” (陽は昇り又沈む)、民謡らしく素朴で郷愁に満ち一度聴いたらそのまま耳の底に残っている名曲だ。

Fiddler on the Roof「屋根の上のヴァイオリン弾き」は当時のミュージカルとして異色の民族問題、宗教問題を取り上げた作品だったにも関わらず、最優秀作品賞、脚本賞、作曲賞などトニー賞7部門を受賞、1964年ブロードウェーで初演以来72年まで8年間3242回という画期的なロング・ランを記録した。

日本での初演は1967年。テヴィエは初代森繁久彌から西田敏行を経て、2004年から市村正親が演じている。2009年の4度目の再演の時から「最強の妻」とゆわれる鳳蘭がゴールデとして加わっている。これだけ再演が続くのはイーディシュ(ロシア系ユダヤ教徒)の親子関係や背景が日本人の琴線に絶妙に触れるからではなかろうか?

日生劇場「屋根の上のヴァイオリン弾き」
[屋根の上のヴァイオリン弾きの写真]


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ストーリー

帝政ロシアの寒村アナテフカに暮らすお人好しで信心深い貧乏な酪農夫・牛乳屋のテヴィエは、25年連れ添っているしっかり者の妻のゴールデには頭が上がらない。子どもは女の子ばかり5人で、夫婦の一番の関心は年頃の娘たちを少しでも早く経済的に豊かな男にユダヤ教の戒律に従って結婚させること。この辺は一昔前の日本の親たちの心情と変わらない。

日生劇場「屋根の上のヴァイオリン弾き」
[屋根の上のヴァイオリン弾きの写真]


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ところが、長女は仲人が持ち込んだ金持ちの肉屋と再婚するより相思相愛の貧乏な仕立屋を選び、ユダヤ教の戒律に従った結婚式を挙げる。この結婚式を破壊するのがロシア人による官製暴徒だ。次女は革命を志す学生を追って彼の流刑先、遥かシベリヤに向かい、三女は両親の心に背きユダヤ人を抑圧するロシア陣営側の青年に恋して家族を離れてしまう。父親としての権威を保ちながらも三女に愛情を伝える市村の腹芸が涙を誘う。

革命が迫る中、帝政ロシアによるユダヤ人迫害は容赦なく続く。アナテフカ村のユダヤ人は全員立ち退きを命じられ、それぞれ欧米に広がる親戚を頼って村を出る。テヴィエ一家も遂に貧しい荷物をまとめアメリカに出発するのである。

「屋根の上のヴァイオリン弾き」を観劇して、イーディシュ(ロシア系ユダヤ教徒)の家主を思い出した。極端な倹約家で家屋の修理は常に先送り、ブロードウェーのチケット代などの贅沢にはお金を使いそうにもない夫妻が家族、友人を引連れて観劇に行き興奮してその感想を語ってくれた。

考えてみると帝政ロシアを追われた貧しいイーディシュが何とかニューヨークに辿り着いたのはそう昔の話ではない。ようやく家作を持つ身分になって改めて辛くても懐かしい寒村の父祖の生活を振り返りたくなったのではなかろうか?(2017年12月5日~29日 東京 日生劇場)


2018.1.1 掲載

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