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大竹しのぶのエディット・ピアフ

2011年の初演以来、2013年、2016年と再演を重ねた音楽劇「ピアフ」は四度目の公演となる。主演の大竹しのぶは自家薬籠の演目として安易に流すどころか真摯に役柄を深化させ、観客に感動を与えている。

「ピアフ」(作:パム・ジェムス 演出:栗山民也)は、猥雑で貧しいパリの路上で歌う小雀から国民的歌手としての名声を得ながらも、次々と男性遍歴で求める愛は満たされないまま自動車事故の後遺症で麻薬中毒となって47年の生涯を駆け抜けたエディット・ピアフの生涯を描く。「ピアフが大竹しのぶに舞い降りた」の劇評は今回も裏切らない。

エディットは街角で歌っていたところジェルニーズ・クラブの主人ルイ・ルプレ(辻萬長)に見いだされて、女友達の娼婦トワーヌ(梅沢昌代)の持ち物を借りてオーディションに行くが雰囲気に気押されて声が出ない。そこで投げ銭用に被っていた帽子を足元におくと、キッチンのナイフやフォークの音に負けない大声が出て合格。

ルプレが殺された事件に巻き込まれスキャンダルを担ったものの、エディットはオランピア劇場を支えるシャンソン歌手となる。最愛の恋人のボクサー、マルセル・セルダン(駿河太郎)を飛行機事故で亡くした後は次々と若い男性を恋人とし、また歌手として育て上げる。

傷痍軍人や娼婦らの下半身の卑猥なエピソードがこれでもかと続く中で、イヴ・モンタン(大田翔)、シャルル・アズナブール(宮原浩暢)の素直な姿に一息つける。女性との交流は少ないが、マレーネ・デイートリッヒ(彩輝なお)に声を大切にするよう忠告されて「分かったよドイツのカァーチャン」と言い返すプロフェッショナル同士の親しさが和やかだ。

フィナーレで最期の時を迎えた衰弱した大竹しのぶが歌う「水に流して」が素晴らしい。

・・・・・・
もういいの
みんな今じゃ過ぎた昔のこと

もういいの もう後悔はしない
昨日のことは全て水に流そう
・・・・・・
もういいの後悔はしない
新しい人生が今日から始まるのさ
・・・・・・

最初聞こえるか聞こえない歌いだしから次第に力強く響いてくる。大拍手が巻き起こる前に客席に広がる静寂が印象的だ。(11月26日シアタークリエ。その後広島、香川、大阪で公演)

大竹しのぶのエディット・ピアフ
エディット・ピアフ(大竹しのぶ)

2018.12.2 掲載

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