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明治座「細雪」

5月4日から始まった今年の「細雪」明治座5月公演が27日、無事千秋楽を迎えた。既に1500回以上舞台化されている谷崎潤一郎の作品は上方文化の中での女優陣の共演の場として伝説となっている。

筆者の個人的な関心は蒔岡家の四姉妹が,船場言葉を関西人の神経に障ることなく話せるのか、長女鶴子を演じる浅野ゆう子がオール宝塚男役OGの一路真輝(次女幸子)、瀬奈じゅん(三女雪子)、水 夏希(四女妙子)の三姉妹を束ねてゆけるのか、であった。

壮大な歴史劇である「風と共に去りぬ」の魅力の一つがビビアン・リー演じるスカーレットの、英国人であるにも関わらず美しいメロディーのように話す、完璧な南部訛りの米国語であった。肝心の船場言葉のアクセントを欠いて関西人の観客をイライラさせては上方おんなの物語「細雪」は成り立たない。

今回「細雪」の公演は三度観劇したが、第一週目から浅野ゆう子は関西人らしく正当な船場アクセントで台詞をこなし、足の親指に重心を載せて内股で動く着物姿の所作が美しく三姉妹を圧倒していた。第二週目では一路真輝の次女幸子と瀬奈じゅんの三女雪子にかなり船場言葉に励んだ結果が示されていた。ことに三女雪子の、一拍の単語の母音を伸ばす発音がスムーズで安心感があった。例えば「気が利かへん」の「気」を「き」でなく「きぃ」と二拍に伸ばすことで「きぃが利かへん」とすることだ。

一方、蒔岡商店の全盛期を知らないまま育った四女妙子役の水夏希は、千秋楽でも台詞の節回し以前に所作面が難しかった。そもそも着物の寸法は六頭身以下向けに成り立っているのに小顔で九頭身にもみえる男役スターが襟元をきっちり合わせた撥襟(ばちえり)で着つけているのでは下半身が長すぎる。広襟にすれば少しは身長が殺せるかとも思うが、広襟は昭和10年代にはなかったので時代考証的にできない。真直ぐ立つとつい膝頭が正面を向いてしまう。このハンディキャップを彼女が挽回したのは、しめやかな山村流地唄舞「雪」と人形展示会での洋装姿だった。

舞台の終盤になると女性たちを意の向くままに生きさせてきた蒔岡家鶴子の婿養子となった辰雄(磯部勉)と、分家した幸子の婿養子貞之助(葛山信吾)の男性二人の心づかいが明らかになってくる。当然のことながら良い女には良い男が付いている。

谷崎潤一郎の原作は戦争中の中断もあり、かなり饒舌な部分もある。菊田一夫の脚本と堀越真の潤色は、場面と人物を適時に置き換えドラマとしてすっきりさせている。水谷幹夫はこれを「昭和絵巻」として演出しているが、フィナーレの紅枝垂桜の下に着物姿でたたずむ四姉妹の姿は正に圧巻。彼女らには「令和」の時代にも日本女性としてあでやかに咲き誇ってほしいと強く願っている。


2019.6.4 掲載

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