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第38回 かぶる[被る](3)


(前回からつづく)
  本来は後から来た人に「かぶられた」か、または他人が「かぶったから困った」と言うべきなのだろうが、短縮化して「かぶった」になったに違いない。
  こうして、重なる意味で「かぶった、かぶった」と連呼するのは最初、友人間の会話時だったが、21世紀に入り、筆者の職場の企画会議の場でも平気で出て来るようになった。
「この企画が他社とかぶることはありません」などという発言をよく聞いた。

国立国語研究所データベースで「かぶる」を検索すると、「重なる」意味での初出は2005年で、それも「Yahoo!知恵袋」だけである。話し言葉を書き言葉として使うケータイ・メール言葉の延長線上で使われている。

Ex.〜自分の意見をはっきりと書きます。人と被ることもあるかもしれませんが。
(2005「Yahoo!知恵袋」)

そして、さらに近年は純粋な書き言葉にも浸食しつつある。

ところで、「かぶる」を漢字で書こうとすると、「被る」となる。
 これは「(損害、被害を)こうむる」と同じ漢字を使うことになる。「かぶる」が「重なる」意味を持つことになったので、「被る」は「重なって困った」意味を表すことができるようになったのだ。

「重なる」だけでは「重なって困る」というようなニュアンスはないので、まさに今まで「なくて困った」表現として出てきたのが「かぶる」という言葉なのだ。(この稿終わり)

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[参考文献]
瀬戸内晴美1965「美は乱調にあり」岩波書店
三浦正好2006「日本語の語源の謎」東京図書出版会
町田健2009「変わる日本語 その感性」青灯社
国立国語研究所データベース「少納言」
「goo」国語辞書 http://dictionary.goo.ne.jp/srch/jn/%E8%A2%AB%E3%82%8B/m2u/


2013.12.15 掲載



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