ホラホラ、これが僕の骨 中原中也ベスト詩集

詩人は辛い

 
私はもう歌なぞ歌わない
誰が歌なぞ歌うものか

みんな歌なぞ聴いてはいない
聴いてるようなふりだけはする

みんなただ冷たい心を持っていて
歌なぞどうだったってかまわないのだ

それなのに聴いてるようなふりはする
そして盛んに拍手を送る

拍手を送るからもう一つ歌おうとすると
もう沢山たくさんといった顔

私はもう歌なぞ歌わない
こんな御都合ごつごうな世の中に歌なぞ歌わない

(一九三五・九・一九)
生前発表詩篇より

朗 読

解 説

詩人は辛い

「詩人は辛い」は1935年9月19日の制作である未刊詩編である。8月、中也は妻の孝子と文也を連れて郷里の湯田から上京したところだった。

この作品は1連2行で、6連から成り立っている。「私はもう歌なぞ歌はない」と始まるこの詩は、「みんな歌なぞ聴いてはゐない/聴いてるやうなふりだけはする」と続く。

名辞以前の世界」だけを己の詩の核心とした中也の詩法がここにも表れる。この詩は「歌う」ことだけを自分の詩法とした中也の素直な気持であったろう。「詩人は辛い」という表題がその事を表わしている。

※中也は『芸術論覚え書』の中で、 <「これが手だ」と、「手」という名辞を口にする前に感じている手、その手が深く感じられていればよい> <名辞が早く脳裏に浮かぶということは、少なくとも芸術家にとっては不幸だ> などと述べている。

※解説中の詩の引用の表記は、書籍『ホラホラ、これが僕の骨』の表記に沿って、旧漢字、歴史的仮名遣いを用いています。読みやすさを重視して新漢字、現代仮名遣いに変えているこのサイトの詩の表記とは異なります。ただし、WEBで表記できない書体もあるので、原文に忠実に表記した書籍と完全には一致しておりません。ご了承ください。

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