ホラホラ、これが僕の骨 中原中也ベスト詩集

時こそ今は……

時こそ今は花は香炉こうろ打薫うちくん
ボードレール

時こそ今は花は香炉こうろ打薫うちくんじ、
そこはかとないけはいです。
しおだる花や水の音や、
家路をいそぐ人々や。

いかに泰子やすこ、いまこそは
しずかに一緒に、おりましょう。
遠くの空を、飛ぶ鳥も
いたいけな情け、みちてます。

いかに泰子、いまこそは
暮るるまがき群青ぐんじょう
空もしずかに流るころ。

いかに泰子、いまこそは
おまえの髪毛かみげなよぶころ
花は香炉に打薫じ、

『山羊の歌』より
しおだる
水にぬれてしずくがたれる。
まがき
竹や柴などを粗く編んだ垣根。
なよぶ
しなやかである。なよなよとしている。

朗 読

解 説

時こそ今は……

「時こそ今は……」は、制作の時期ははっきりしない。しかし、「いかに泰子、いまこそは」という呼びかけがあるところから、1928年5月小林秀雄と長谷川泰子が別れた後だと思われる。中也は、泰子は自分の元へ戻って来ると思っていた。

「いかに泰子、いまこそは
 しづかに一緒に、をりませう。
 遠くの空を、飛ぶ鳥も
 いたいけな情け、みちてます。」

上に引いたのはこの詩の2連目の4行だが、「こそ今は花は香爐に打薫じ、」というボードレールの1句から歌われている1連目の最初の1行へとつながる。4連目の最後で「花は香爐に打薫じ、」で終わっているが、おそらく「時こそ今は」を省いたのは表題と重なるからであろう。

※参考 中也が参考にしたと思われるボードレール「薄暮の曲」(上田敏訳)の冒頭。 時こそ今は水枝さす、こぬれに花の顫ふころ、 花は薫じて追い風に、不断の香の爐に似たり。

※解説中の詩の引用の表記は、書籍『ホラホラ、これが僕の骨』の表記に沿って、旧漢字、歴史的仮名遣いを用いています。読みやすさを重視して新漢字、現代仮名遣いに変えているこのサイトの詩の表記とは異なります。ただし、WEBで表記できない書体もあるので、原文に忠実に表記した書籍と完全には一致しておりません。ご了承ください。

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