ホラホラ、これが僕の骨 中原中也ベスト詩集

妹よ

夜、うつくしい魂はいて、
   ――かの女こそ正当あたりきなのに――
夜、うつくしい魂は涕いて、
   もう死んだっていいよう……というのであった。

湿った野原の黒い土、短い草の上を
   夜風は吹いて、 
死んだっていいよう、死んだっていいよう、と、
   うつくしい魂は涕くのであった。

夜、み空はたかく、吹く風はこまやかに
   ――祈るよりほか、わたくしに、すべはなかった……

『山羊の歌』より
正当あたりき
「あたりまえ」を語呂よく言った言葉。

朗 読

解 説

妹よ

「妹よ」は、1930年4月『白痴群』第6号に発表された。『白痴群』はこの6号をもって廃刊した。中也は沈滞期に入った。

「妹よ」のモチーフは、沢賢治が妹とし子(本名はトシ)の死を契機として制作した詩篇群にあったことは疑いがない。

 「夜、うつくしい魂は涕いて、
    ――かの女こそ正當あたりきなのに――
夜、うつくしい魂は涕いて、
    もう死んだっていいよう……というのであつた。」

とし子の東北弁の「死んでもいいはんて」のリフレインが、そのまま「死んだっていいよう」の標準語のリフレインへと置換されたことで「妹よ」は成った。つまり、賢治の妹とし子への鎮魂歌群の反歌として「妹よ」は誕生したのだ。

※参考「噴火湾(ノクターン)」(宮澤賢治詩集『春と修羅』より)の一節 7月末のそのころに 思い余ったようにとし子が言った   ⦅おらあど死んでもいぃはんて    あの林の中さ行ぐだぃ    うごいで熱は高ぐなっても    あの林の中でだらほんとに死んでもいぃはんて⦆

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