ホラホラ、これが僕の骨 中原中也ベスト詩集

夏の夜の博覧会はかなしからずや

 
夏の夜の、博覧会は、哀しからずや
雨ちょと降りて、やがてもあがりぬ
夏の夜の、博覧会は、哀しからずや

女房買物をなす間、かなしからずや
象の前に余と坊やとはいぬ
二人しゃがんでいぬ、かなしからずや、やがて女房きぬ

三人みたり博覧会を出でぬかなしからずや
不忍ノ池しのばずのいけの前に立ちぬ、坊やながめてありぬ

そは坊やの見し、水の中にて最も大なるものなりきかなしからずや、
髪毛かみげ風に吹かれつ
見てありぬ、見てありぬ、
それより手を引きて歩きて
広小路ひろこうじに出でぬ、かなしからずや

広小路にて玩具を買いぬ、うさぎの玩具かなしからずや

その日博覧会に入りしばかりのとき
なお明るく、昼のあかりありぬ、

われら三人みたり飛行機にのりぬ
例の廻旋かいせんする飛行機にのりぬ

飛行機の夕空にめぐれば、
四囲しい燈光とうこうまた夕空にめぐりぬ

夕空は、紺青こんじょうの色なりき
燈光は、貝釦かいボタンの色なりき

その時よ、坊や見てありぬ
その時よ、めぐるボタン
その時よ、坊やみてありぬ
その時よ、紺青の空!

(一九三六・一二・二四)
未発表詩篇より

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