ホラホラ、これが僕の骨 中原中也ベスト詩集

冷たい夜

冬の夜に
私の心が悲しんでいる
悲しんでいる、わけもなく……
心はびて、紫色をしている。

丈夫じょうぶな扉の向うに、
古い日は放心ほうしんしている。
丘の上では
わたの実が罅裂はじける。

此処ここではたきぎくすぶっている、
その煙は、自分自らを
知ってでもいるようにのぼる。

さそわれるでもなく
もとめるでもなく、
私の心がくすぶる……

『在りし日の歌』より

朗 読

解 説

冷たい夜

「冷たい夜」は1936年『四季』2月号に発表された。この年は『季』『文学界』『改造』『紀元』等に詩、訳詩を多数発表した。1月には「含羞はぢらひ」、6月には「六月の雨」と代表作を発表している。

「冬の夜に
 私の心が悲しんでゐる」

と歌い出す4行、4行、3行、3行の14行詩で、冬の夜の詩人の孤影を歌っている。「冷たい夜」は土に根を張る植物のように自分は実を結ぶこともなく、実が罅裂はじけて新しい生命の予兆を現わすようなものがないと嘆くのだ。ただ根を断たれて半ば枯れた薪のように火にくべられて燻るほかはないと。

※『四季』『文学界』『改造』『紀元』 いずれも雑誌名。

※解説中の詩の引用の表記は、書籍『ホラホラ、これが僕の骨』の表記に沿って、旧漢字、歴史的仮名遣いを用いています。読みやすさを重視して新漢字、現代仮名遣いに変えているこのサイトの詩の表記とは異なります。ただし、WEBで表記できない書体もあるので、原文に忠実に表記した書籍と完全には一致しておりません。ご了承ください。

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